ソーシャル・ビジネスに取り組む事業型NPOに伝えたいファンドレイジングの話

新型コロナウイルスの感染が拡大してから、組織化する前の個人で取り組んでいるボランティア活動に関する相談が減った一方で、ソーシャル・ビジネスに取り組む事業型NPOからの相談が増えています。事業型NPOに伝えたいファンドレイジングについてまとめておきたいと思います。

事業型NPOについて

私はソーシャル・ビジネスを「市場メカニズムを使って社会的課題を解決する手法」であると考えています。市場メカニズムとは、乱暴に言ってしまえば商品やサービスを売ったり、買ったりすることです。商品・サービスの売買を通じた社会的課題の解決です。ソーシャル・ビジネスという用語そのものには、NPO法人や株式会社、協同組合などの組織形態の在り方まで含まれていません。事業型NPOといった場合、利益を所有者に分配せずに社会的課題の解決という事業に再投資するという非営利でソーシャル・ビジネスに取り組んでいる団体をさすことにします。

事業型NPOの財源とコロナ禍の影響

NPOの財源には大きく二つあります。ひとつが、対価性財源と言われる財源です。対価性財源は事業性財源とも言われます。商品の代金や施設の利用料、スタディツアーやイベントの参加費、行政や他団体からの委託事業など商品・サービスを提供することで得られる収入です。もうひとつが、支援性財源で運動性財源とも呼ばれます。会費や寄付、補助金、助成金が含まれます。
事業型NPOの主な財源は、対価性財源となります。コロナ禍による三密の回避や外出自粛の要請でこれまで財源の中心だった事業(特に対面型サービス)そのものができなくなり、対価性財源が極端に影響を受けています。そこで支援性財源を増やし、財源の多様化を目指して動き始めているのです。

支援性財源を増やす準備

対価性財源と支援性財源を以下の図のように市民との関係性で整理してみました。対価性財源では、商品・サービスの売買が中心になりますので、市民はサービスを消費する顧客という関係になります。また、サービスを効率よく提供し成果を出すために、専従職員や専門家がサービス提供を担うことになります。そのため、商品・サービスを提供する視点から見てもボランティアなどの市民の参加の場面は限られてしまいます。
一方で、支援性財源では、市民は団体が目指すビジョンの実現を願う支援者と言えます。ミッションの実践をサポートする協力者・パートナーという見方もできます。会員や寄付者のほか、ボランティアといった参加の方法も考えられます。

【図】対価性財源と支援性財源の違い

伝えたい相手が顧客と支援者ではコミュニケーションの内容が変わってきます。日本ファンドレイジング協会「寄付白書2015ーGiving Japan2015」(平成27年11月)では、寄付先を選ぶ際に重視したこととして「寄付の使い道が明確で、有効に使ってもらえること」が42.3%、「活動の趣旨や目的に賛同・共感・期待できること」が36.6%という結果が出ています。
以下の表をご覧ください。内閣府「市民の社会貢献に関する実態調査」では、寄付の妨げになる要因として「寄附先の団体・NPO法人等に対する不信感があり、信頼度に欠けること」が24.1%、「寄附をしても、実際に役に立っていると思えないこと」が22.6%となっています。顧客は、商品やサービスの内容や品質に関心があると思いますが、支援者はビジョンやミッションといった理念、組織の信頼性や透明性に関心があると考えられます。

【表】 内閣府「市民の社会貢献に関する実態調査」 (平成25年、平成27年、令和元年)

非営利は参加と協力の条件とも言われます。ソーシャル・ビジネスに取り組む事業型NPOにとって、非営利であることを生かした財源確保や事業展開を考えるよい機会になると思います。財源の多様化、支援性財源の獲得を目指すときは、団体内で「非営利とは何か」「なぜ非営利で活動するのか」を議論し、ビジョンとミッションの確認から始めてみてはいかがでしょうか。

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