コロナ禍はNPOをどう変えるか

新型コロナウイルス(COVID-19)は、医療機関や介護施設だけでなく、広くNPO・非営利セクターにも大きな影響を及ぼしています。三密の回避、ソーシャル・ディスタンス(社会的距離の確保)、外出の自粛などは、受益者のニーズや支援のやり方を変えています。この記事ではコロナ禍はNPOの運営をどのように変えるのか考えてみたいと思います。

ステークホルダーの多様性が高まる

テレワークや在宅勤務が進むと、非営利団体の職員の多様化が高まると考えられます。東京にしか事務局がなくても、地方在住や海外在住の人もリモートで事務局業務を行えるようになります。子育てや介護で家を離れづらい人、障害者や高齢者といった移動に困難を抱える人も事務局の仕事ができる環境が整います。海外から日本の事務局業務に取り組むときは時差が気になりますが、むしろ時差を活かして24時間365日体制も可能になります。特に相談業務に取り組んでいる団体は、このメリットを活かせるかもしれません。

セミナーやシンポジウムをオンラインで開催するNPOが増えています。東京でしか開催されていなかったイベントに地方からでも参加しやすくなりました。一方で、地方で活動していても東京や大阪など都市部への発信もしやすくなります。オンラインツールを上手に活用することで事務所から遠隔地に暮らす既存の支援者との関係を強化することができ、さらに新たな潜在的な支援者との関係を築くことができるようになります。

事務所の形態が変わる

これまでは固定費を削減するためにオフィスは小さくする傾向にあったと思います。しかし、三密(密集・密接・密閉)を回避し、ソーシャル・ディスタンスを確保するためには、より大きく開放的な事務所が必要になってきます。活動内容によっては、大きな事務所を確保するために地方移転を検討する団体も現れるかもしれません。地域の課題解決を行う団体にとっては現実的ではありませんが、国際協力分野や多拠点展開・全国展開している団体にとっては本部機能を地方に移すことも選択肢のひとつになります。大都市集中から地方分散へ、NPO活動のすそ野の拡大も期待できます。

これとは真逆にリモートワークや在宅勤務に特化し、事務所自体を持たないオフィスレスの団体も増えると思います。三密の回避、ソーシャル・ディスタンスの確保だけでなく、固定費を抑えた組織運営といったメリットもあります。事務所を持たない団体が増えれば、会議室を貸出しているNPOセンターやボランティアセンターと言った地域の市民活動を支援する施設の役割は大きくなっていきます。柔軟な勤務時間や業務を含む新しい就業規則やリモートで働く職員のメンタルヘルスへの配慮など新たな課題も生まれるかもしれませんが、働き方の多様化を受け入れざるを得なくなると考えられます。

財源の多様化に向けた動きが加速する

財源の多様化は以前から話題になっていますが、コロナ禍によってさらに加速すると考えています。コロナ禍のなかで特に影響を受けているのは、助成金やイベントによる事業収入など特定の財源に頼ってきた団体です。特定の財源に依存している団体ほど影響が大きくなる傾向にあるため、財源の多様化に向けた動きは活発化するでしょう。健全な内部留保資金がある団体は、受益者への支援を継続して行うことができています。内部留保資金がない団体は、支援活動の縮小や閉鎖などの厳しい判断を迫られています。このような反省から、団体に基金の設立を計画する団体が増えるのではないかと思います。

基金といった使途指定寄付のほか、使途を指定しない一般寄付や会員を増やしていくには、資金調達の原点に立ち返った戦略や計画が必要になってきます。そこにさらに支援者データの管理や非接触型決済(オンライン募金)などデジタルデータの活用とデジタル技術への対応が不可欠になっていくと予測します。支援者データベースを整理し、住所変更やメールアドレスがない不完全な支援者の連絡先記録を最新で完全な状態する動きが同時に生まれるのではないかと思います。

コミュニケーションの透明性が評価される組織文化になる

職員がリモートで仕事をしていても、リーダーや他の職員とのつながりを感じられるようにするには、コミュニケーションの透明性を確保しなければなりません。コミュニケーションが透明であれば、団体内に信頼の環境が生まれます。

どの団体も財源や人材の不足に直面しています。非営利団体のなかには、活動の規模を縮小する必要がある団体もあるかもしれません。その時は、意思決定について透明性を持たせる必要があります。職員同士だけでなく、理事会、ボランティア、寄付者、そして受益者との間で、オープンなコミュニケーションを保つことが必要になってきます。コミュニケーションの透明性が評価される組織文化になっていくと想像します。

NPO同士の連携・合併が模索される

コロナ禍では、財源が減る一方で、非営利団体の支援に対するニーズが変化したり、急増したりしていると思います。多くの受益者は過去につながったことがある身近な地域密着型の非営利団体に助けを求めることが多いからです。一方で、追加のニーズに対応するために、これまで取り組んできた財源を確保するための取り組みまで手が回らなくなることもあり得ます。まさにコロナ禍はそのような状況にあります。

寄付やボランティアといった社会的な資源は、一般に知られている全国規模の非営利団体に流れ込む可能性が高いことも事実です。そのため、資金や人材を必要としている地域密着型の非営利団体と全国規模の非営利団体の連携・合併といった動きも生まれるかもしれません。

阪神淡路大震災の1995年は「ボランティア元年」、東日本大震災の2011年は「寄付元年」と大規模な危機が発生するたびに日本の非営利セクターに変化が起きています。5年、10年たって思い返したときに、コロナ禍の2020年はどんな元年になっているでしょうか。非営利団体は最も脆弱な人々や社会的な課題に特に近い存在です。危機が起こるたびに非営利団体はボランティアや寄付といった社会の資源を集めて乗り越えてきました。私は、非営利団体が社会で果たしている役割を再認識される機会になることを期待したいと思います。

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