NPOの活動を見つけてもらうコンテンツマーケティング事例

NPOやNGOにとってコンテンツは大切な資産です。コンテンツをうまく活用することで、潜在的な支援者にアプローチしていくことが可能になります。NPO/NGOのコンテンツ・マーケティング実践事例を見てみたいと思います。

まず、コンテンツ・マーケティングとはどういうものか確認しておきたいと思います。米国コンテンツ・マーケティング・インスティテュートによる定義は以下になります。

Content marketing is a strategic marketing approach focused on creating and distributing valuable, relevant, and consistent content to attract and retain a clearly-defined audience — and, ultimately, to drive profitable customer action.

コンテンツ・マーケティングとは、価値があり、意味のある(適切/妥当な)、一貫したコンテンツをつくり、配信することにフォーカスした戦略的なマーケティング・アプローチである。そのコンテンツは、明確に定義された読者を魅了し、読者であり続け、最終的に利益につながる顧客の行動に至らせる。

Content Marketing Institute “What Is Content Marketing?”

簡単に言ってしまうと、自分たちが宣伝したい商品やサービスの代わりに顧客にとって役に立つコンテンツを提供して行きましょう、結果的にそのことが利益につながります、ということになります。NPO/NGOの文脈で言い換えると、募金活動やイベント案内ではなく、支援者が知りたいと思っている情報を発信していくということになります。もちろん、既存支援者にとっては、寄付がどのように使われたかという活動報告が支援者が知りたいと思っている情報のひとつではありますが、潜在的な支援者は必ずしもそうではありません。潜在的な支援者がどのような人で、どのような情報が役立つのか、想像することが大切になってきます。それではNPO/NGOの先行事例を見ていきたいと思います。

 スゴいい保育

訪問型病児保育、障害児保育、小規模保育などに取り組むフローレンスが運営するウェブサイトです。病児保育をはじめとする保育の勘所だけでなく、海外の保育事情や保育士試験対策など充実したコンテンツです。フローレンスが提供するサービスの利用者、フローレンスの支援者、採用活動などを意識していると思われます。

 トジョウエンジン

トジョウエンジンは、「途上国の教育格差を、若者の力で解決する」ことを目指して活動するe-Education Projectが運営。活動の紹介記事もありますが、他団体の活動紹介やインタビュー、社会変革アイデア、息を呑む絶景、独特の文化などの途上国の魅力を発信しています。団体の活動目的にもあるように「若者」が想定読者でしょうか。

DRIVE

ETIC.が運営するDRIVEは、未来を創っていこうとする人たちを後押しするコンテンツを発信する行動系ウェブマガジンです。ETIC.は次代を担う起業家型リーダーの輩出を通じてイノベーションに貢献するNPO。働き方に関する記事から、テクノロジーネタ、社会政策や組織論までバラエティーに富んだ情報を配信中です。インタビューに登場する方も若い人が多く、トジョウエンジンと同様、若者(学生や若手社会人)が読者対象だと見て取れます。

医師団の雑談

説明不要な、あの国境なき医師団・日本が運営するウェブサイトです。その名も「医師団の雑談」。国際協力団体ならではのコンテンツが並んでいます。たとえば、途上国でのサバイバル術や途上国あるある話、料理、異文化コミュニケーション術など、国際協力分野のお手本のようなコンテンツマーケティングだと思います。記事の中には運営団体である「国境なき医師団」という名称は出てきませんが、写真の中にさりげなくロゴが映り込んでいて、潜在的な支援者に対する認知度向上を意識していると思われます。

育て上げリサーチ

認定NPO法人育て上げネットが運営する調査研究「育て上げリサーチ」。これまで紹介した潜在的な顧客、支援者獲得、認知度向上とは毛色が異なります。自分たちの事業のみならず社会で実施された若者支援に関する様々な調査や活動を情報発信しています。政策提言やロビーイングなどの目的があるのでしょうか。研究者や行政担当者、政治家などが想定読者になりそうです。

ニッポン複雑紀行

ニッポン複雑紀行は、認定NPO法人難民支援協会が運営する「日本の移民文化・移民事情を伝えるウェブマガジン」です。記事の執筆者は、同協会のスタッフだけでなく、ライターや編集者、社会学者、他団体の職員などが参画しています。難民も移民もそうでない人も、誰もがともに暮らせる社会の魅力や乗り越えるべき課題を伝えています。

 greenz.jp

NPOグリーンズは、関係性のデザインを探究して「いかしあうつながりがあふれる幸せな社会」を目指す非営利組織です。そのNPOグリーンズが運営しているウェブマガジンが「greenz.jp」です。日本全国、世界各地の「いかしあうつながり」事例を取材し、誰でも読める記事を発信しています。2006年の創刊以来、合計で6000本の記事すべてが無料で公開されています。NPOのコンテンツマーケティングの先駆けともいえる取り組みです。NPOグリーンズの事業のひとつという位置づけで、ライター、エディター、カメラマンなどプロフェッショナルによる運営となっています。

2枚目の名刺ウェブマガジン

特定非営利活動法人二枚目の名刺は、会社人が二枚目な社会人になるときに立ち寄る場所として「2枚目の名刺webマガジン」を運営しています。2枚目というのは、ベクトルを社会に向けて一人ひとりが大切にする価値観を表現し、社会のこれからを創っていること、つまりカッコよさを表しています。「2枚目の名刺webマガジン」では、2枚目の名刺を持ったカッコイイ社会人(パラレルキャリアの社会人)がふんだんに紹介されています。

NPO CROSS

「NPO CROSS」は、NPO CROSS編集委員会が運営(事務局は特定非営利活動法人日本NPOセンター)するNPOに関わる人がNPO・市民社会をさまざまな角度で論ずるオピニオンメディアとなっています。寄稿記事が中心で日本NPOセンターの会員が寄稿しています。事務局だけで運営が難しい場合、「NPO CROSS」のように会員やボランティアの協力を得ながら進める方法もあります。記事の方向性は、NPOの役割でもある課題解決の視点​と価値創造の視点というように明確になっています。

体制づくりが勘所

情報感度の高いファンドレイザーや広報担当者はコンテンツ・マーケティングの可能性や必要性は感じていると思います。新しいことに挑戦しようとすると必ずと言っていいほどぶつかる「じゃ、誰がやるの?」という問題。twitterやfacebookなどのソーシャルメディアで経験している人も多いと思いますが、公式アカウントを立ち上げたはいいけど、運用がうまくいかない問題。はじめることよりも、続けることのほうがよっぽど大変なのです。はじめる前に体制を検討しておくことがなにより大切になります。

NPOやNGOはステークホルダーを巻き込みやすい文化があります。職員だけで続けようとせずに、理事会などの役員、支援者、ボランティア、協働する企業なども巻き込み体制づくりをしていくことをおすすめします。たとえば、TABLE FOR TWOの「ヘルメシなび」は、飲食店検索サイトぐるなびと協働し、ユーザーからの投稿で運営しています。コンテンツ・マーケティングは目に見える効果が出るまで時間を必要とします。小規模にはじめ、徐々に続けられる体制を整えていきましょう。

ここではウェブサイトをご紹介しましたが、コンテンツ・マーケティングはウェブサイトだけではありません。YouTubeやInstagramなどソーシャルメディアもそうですし、セミナーや冊子などもコンテンツ・マーケティングになります。すでに実施していることを、潜在的な支援者にとってどのような情報が役立つのかという視点で見直してみるのもいいかもしれません。

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